ドローシーさんの講演会の翌朝、またまた神戸・六甲にあるスペース・サラシャンティでの日木流奈(ヒキ ルナ)君の講演会に行った。数年前から、いろんな人の通信とかで紹介されていて、知ってはいたが、目の前にして人間の可能性を信じることのできるできごとがあるという気がした。脳障害で、歩くことも書くこともできず、12歳だが、母親に抱かれる姿は5歳児くらいに見える。ドーマン法というリハビリプログラムがきっかけで、知識をつたえることができるようになり、訓練のおかげで、5歳の時、初めて文字盤に指さして、自分の意志を伝えることができるようになったという。
それからの知的欲求の速度が驚くほど速い。6歳の誕生日を前に、広辞苑を読破。初めての詩集もコピー本として友人に配るなどしている。父と母との二人三脚という訓練は、多くのボランティアの助けも必要とした。ドーマン法を本格的にやろうとしたとき、プログラムの準備や実施に夫婦二人では取り組めなくなっていき、ボランティア募集のチラシを近所で配ったそうだ。私はこの事実に注目する。
お父さんが講演のなかでも言っていたが、家のなかで訓練する毎日だったけど、たくさんの人達がサポートに来てくれたり、訪問してくれたりするおかげで、じっとしていても旅に出ているような感じだったという。指さし以外にコミュニケーションを取ることはできないが、やってくる人の話はよく聞いていた。そして、そこからいろんなことを考え学んでいるようだった。
「毎日、愛しているよ、好きだよ、と100回言われて、抱きしめられたり、キスされたりするんですよ。そしたら、自分はここにいてもいいんだな。って安心して、愛があふれてくるんです。子供にはできるけど、大人どうしはしなくなりますよね」と講演の中でルナ君が言った。後ろの方にいた私は、そばにいた知り合いに、大人同士も、好きだよ、可愛いねって、やったらいいね、っとウインクしてささやいた。すかさず、ルナ君の指が動いて、「それ、いいですね、やると」とお母さんが通訳した。斜視気味の目が、私たちを見ているかのごとく、早い応答だったので、思わず、「天井に目があるのかな」とつぶやいた。心の目がはたらいて、その場に愛が満ちているような温かいモノが流れていた。
『伝わるのは愛しかないから』ルナ君の最新の本の題名である。