小さな公団住宅に住んでいた私が、ここモモの家に引っ越してきて5年半。一戸建て庭付きという家に住むのは、幼い頃から、実に32年ぶりのことだった。6歳まで住んでいた生家は、京都市の山科というところにあった小さな市営住宅だった。二間しかなかったが、子どもには十分な庭があった。
木の家に住み、犬を飼うなんてことは、しばらく想像もつかなかった。小さな頃から犬は苦手であった。どんな小さな犬でも怖くて、噛まれるのではないかとビクビクしていた。しぶしぶ引っ越しについてきてくれた息子へ、少しでもコミュニケーションがうまくいくかという願いで、飼い始めた。初めての子犬育ては、思ったより大変だった。散歩の行き方もわからない。犬はぜったい外で飼うつもりだったけど、血統書付きの犬のマニュアル通り、3カ月間はなるべく蚊にさされないため、家の中で飼った。いったん、家に入れてしまうと、外で飼うことがむずかしいことがわかった。とにかく、よく吠えたし、子ども達も情が移って、外の小屋にいる犬を結局は家にいれてしまった。
かくして、犬のドングリは、すっかり、甘えん坊で、今日もコスモクロス(合気体操)の時に、みんなといっしょに広間入り、寝そべっている始末。モモの家が出来た頃は、犬を家で飼っていることに驚かれたりして、こちらも申し訳なく思ったモノだが、最近はほとんどの人に愛されて幸せなドングリだ。
犬を飼うまでは、自分を基準にしていたから、世間の半分の人は犬好きで、残りの半分の人は犬嫌いだと思っていた。ところが、今は、90%の人は、犬が好きなのではないかと思うようになった。散歩なんて、遠足の時くらいしかしなかった私が、毎朝のように散歩に行く。そして、見知らぬ人と犬をきっかけに話す。犬と歩いていなかったら、出会わないような人達だ。犬を連れていない人でも、ドングリに目を細めたり、話し掛けたりしている。赤ちゃんを連れているようなモノだ。
近所の公園のそばに保育園と母子寮を兼ねた建物があり、そこに住んでいる姉妹と仲良しになった。彼らも、ドングリは?と遊びに来る。つき合っていく人間関係が犬のドングリのおかげで広がった。動物が嫌いだった私を知っている人は、顔中犬になめられても平気になった私を見て、ビックリするだろうなあ。